世界は上勝を見つけた
1月21日。
いつものようにカフェの営業が終わり、片付けをしていると、
真っ暗な冬の寒空の中、一人の男性がカフェを訪れてくれた。
彼はこの日が命日である妻のお母さんに供えてほしいと言って、
数枚の新聞記事の切り抜きを私に手渡した。
そして、上勝町でゼロ・ウェイストへの取り組みを始めた当時の、
エピソードをひとつ教えてくれた。
自前の焼却炉を使わず、徹底した分別を住民の協力のもと
実現するという廃棄物処理への取り組みを進める中で、
様々な障壁があった。
活動を進める中で反対意見にあうことや、
奇異の目を向けられることも多かった。
しかしそのたびに、お母さんとは、こんな風に話しをしてお互いを勇気づけた。「たぶんこの活動を続けても、
県は評価しないだろうし、
日本人も評価しないだろう。
ただ、きっと世界はいつか私達を見つけてくれて、
その時始めて日本人は上勝を知ることになるだろう。」
その言葉は、今まさに実現することとなった。
世界は上勝を見つけたのである。

現在スイスで行われている世界経済フォーラムの年次総会であるダボス会議に、
上勝町にあるNPO法人ゼロ・ウェイストアカデミーの理事長、
坂野晶が共同議長として参加している。
高齢化率約50%にもなる人口たったの1,500人の町。
そこを舞台として活動する若干29歳の女性が、
日本の、いや世界の若者の代弁者のひとりとして選ばれたのだ。
もちろんこれまでも上勝は国内外多くの評価も受け、
メディアに取り上げられてきた。
いろどり事業も含めてだが、
年間人口の倍にもなる人数の視察者が、
今も上勝を訪れている。
しかし、そのほとんどが、
45というごみの分別数ばかりに着目し、
「小さな町だからできることだよね」
という言葉で片付け、町を後にする。
本当の上勝が訴えかけていることに気づかずに、だ。
自分たちが未来に繋げたい美しい風景を守るために大きな理想を描くこと。
その地域だからこそできる方法を模索し挑戦し続けること。
そのために自治体だけでなく、住民ひとりひとりも力を合わせること。
そうすれば、リサイクル率80%を達成した上勝のように、
小さなコミュニティは世界を変えていくような力や可能性を持っている。
そして同時に、残りの20%は自分たちだけで解決できるものではなく、
今まさに、町が、県が、国が、企業が、教育機関が、私達ひとりひとりが、
それぞれが手を取り合って循環型社会の実現に向けて取り組まなければならない。
それが、世界が見ている、そして坂野晶が必死に訴えかけている”Kamikatsu”である。
なのに、未だに日本人の多くは、
ごみを45分別する変わった町”上勝”としてしか知らない。
廃炉の方法や使用済み燃料タンクの処理方法に課題を抱えたまま
再稼働を進める日本政府も、
多額の事業費をかけて広域ごみ処理施設の整備を進める徳島も、
いまだに上勝を見つけることはできていない。
そしてその上勝町でさえ、住民に満足のいく説明もないまま、
東京の会社にほぼ全権を委託して新しいゴミステーションの建設を進めている。
上勝町新ゴミステーション。2020年完成予定。
多額の資金を投与し、素晴らしい建築家が創るその建物は、
これまでの中間処理施設の常識をくつがえす、美しいゴミステーションとなるだろう。
しかし、これまで上勝町でゼロ・ウェイストの取り組みを繋いできた人たちの、
そこの住む一人ひとりの住民の、想いはその建物に宿るのだろうか。
もはや上勝町ですら、上勝を見失い始めているように、私は思う。
このダボス会議をきっかけに、私達はもう一度上勝を
見つめ直すことができるのだろうか。
リンク先動画の21分ごろより、最初の記者会見での坂野晶の話が聞けます。
そしてもうひとつ、書き記しておきたいことがある。
今回坂野晶が選ばれたのは、
上勝町をこれまで築き上げてきた先人たちの成果であることはもちろんだが、
並々ならぬ彼女自身の努力があったことに間違いはない。
それは、フォーラムの様子を見ればわかるだろう。
君は一体何者なんだ?という周りの目を晶らしく楽しみながら、
上勝のためだけでなく、世界のために必死に戦っている。
ぜひ多くの人にその姿を見てもらいたい。
もしあなたが英語が苦手であったとしても、
きっと何かが伝わるはずだ。
そして私と同じように、一人でも多くの人が、
その姿に勇気をもらい、刺激を受けてほしい。
グローバルに起こる問題を他人事ではなく、
まだ見ぬ誰かのために、理想の未来を創るために、
自分ごととして捉え、小さくても一歩を踏み出す、
そのきっかけとなればと思う。
“Every global leader here needs to be localized.
Globalization 4.0 should start with localization.”
「全てのここにいるリーダーたちに必要なのは、ローカライゼーションだ
グローバリゼーション4.0は、ローカライゼーションから始めるべきだ。」
この会議を通じて、坂野晶は一貫してこう主張し続けていたように思う。
グローバルの最先端は、常にローカルだ。
ローカルにならえ、ローカルに生きろ。
それが、次のグローバルとなる。
変化の激しい時代、気候変動の問題だけではなく、
世界はこれまで以上に複雑で困難な問題に直面するだろう。
その中で理想の社会を実現していくためには、
一部のリーダーにとってだけではなく、
私達一般市民にとっても、
全ての始まりは”ローカライゼーション”なはずだ。
<2019年1月27日追記>
みなさんがシェアしてくださったおかけで、
思った以上の方がこの記事を読んでくださっているので、
少し追記をしておきます。
妻のお母さんについて
妻のお母さんとは、上勝町のゼロ・ウェイスト活動の立役者である東ひとみさんです。
2004年の記事ですが、記事をリンクしておきます。
http://www.thinktheearth.net/jp/thinkdaily/report/2004/05/rpt-16.html#page-6
上勝町の新ごみステーションについて
上勝町は、2003年のゼロ・ウェイスト宣言時に、
2020年をひとつの区切りとして設定しています。
その2020年を迎えるにあたって、ひとつの大きなプロジェクトとして
ゴミステーションの建て替え工事を現在行っています。
私は、この新ゴミステーションのコンセプトや計画づくりにあたって、
住民やゼロ・ウェイスト活動を草の根で支えてきた方々と、
この計画の委託事業者との十分な意見交換がないまま、
ここまで計画が進んでしまったと思っています。
https://www.fashionsnap.com/article/2018-12-05/why/
http://why-kamikatsu.jp/



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