【寄稿】「消費される仕事と、そうでない仕事」を考えてみた。後編 -ライター 甲斐かおり-
昨日と今日、2日にわたってお届けしているライター甲斐かおりさんの寄稿記事。
前編は上勝との出会いから消費する、されるとは何かということについて考える内容でした。今晩お届けする後編は甲斐さんなりの答えが出てきます。
では後編、お楽しみください。
5 「消費する、される」は「お金」が介在するかどうかではない
しばらく考えてみて、わりとすぐに自分の中ではっきりしたのは、消費されるかされないかは「お金が介在するかどうか」で決まるものではないのでは、ということだ。仮にお金が介在しても、消費しないされない関係はつくることができる。
たとえば宮崎県の椎葉村で聞いた一人のおばあさんの話がある。このおばあさんは村の中でしか流通していない「菜どうふ」と呼ばれる、豆腐に大根の葉やらニンジンやらを入れてつくる郷土食の豆腐づくりを生活の糧の一部にしていた。
もともとこの夫婦には本業の農業があり、菜どうふは自家用として趣味的につくっていたもの。ご近所さんへおすそ分けしたところ、あまりに美味しいので「売ってほしい」という人が続出した。売ってほしいと言った側には、大きく二つの心理がある。一つは「もらってばかりでは悪いけど、お金を出して買えるなら気兼ねなく買える」。もう一つは「相手がつくった時など不確定なタイミングだけでなく、欲しいときに頼めるようにしたい」というもの。
結果、おばあさんは安くでこの豆腐を売り始めた。注文があれば毎朝でもつくる。「趣味」が「仕事」になった瞬間だ。思いやりを起点とするおすそわけ、「贈与」が市場経済における「交換対象」になったと言い換えることもできる。でもだからといって、このおばあさんが「消費されている」と感じているかといえば、そうではない。

「毎朝豆腐つくって、届けにまわるでしょう。ちょうどお昼頃になるもんね。そうすっとみんなお茶やらお昼ごはんやら構えて待ってくれとって。もうどっちが儲けかわからんよ。楽しくてねぇ。私はよそからお嫁に来たけん、地元の人らと深く接したことなかったもんね。それが豆腐を始めて、今はお父さんよりみんなのことよう知っとるもん」
このおばあさんは求めに応じて豆腐をつくってあげられることが嬉しいし、やりがいも感じている。頼む側も商品になって値段がついているからこそ頼みやすい。けれど、つくってくれてありがとうという気持ちがちゃんと残っている。お金が介在するようになったから途端に「消費する、される」関係になったとは言い切れない。一つには、つくる人と買う人が、お互いちゃんと見えていて、感謝を伝え合うことのできる距離感(物理的な距離だけでなく心の距離)にあるからではないか。


6 交換だけでも、贈与だけでもなく
一方で、世の中すべての経済活動が贈与で置き換えられるかというと、それも難しい気がする。その理由は最近出た『世の中は贈与でできている』(近内悠太著)にあった「贈与」の性質を読んではっきりした。贈与とはお金で買えないものであり、合理的であってはならないもの。与える側は、見返りを求めることはできない。先に何らかの対価を求めるとしたら、それは市場経済上の「交換」であって「贈与」ではないからだ。
つまり、贈与とは不安定であり、不確実なものなのだ。人の思いやりから生じるものなので仕方ないけれど、電車が来たり来なかったりしては生活に支障をきたすし、欲しいときに手に入らないと困るものだってたくさんあるだろう。
さらに、「贈与」とは相手に見返りを求めず奉仕することだ。しかし奉仕を受け取った側は、無意識に負債を負ったという気持ちが人間の自然な摂理として起こる。これが時として受け取った側を縛る「呪い」にもなると著者は書いている。

交換経済だけでも限界があるけれど、贈与経済だけでも限界がある。ここからは私論だけれど、「交換」と「贈与」は二者択一のようにきれいに分けられるものではなくて、共存できるものではないだろうか。ベースは市場経済にのっとった「交換」でも、その上に「贈与」の気持ちがのることは往々にしてある。
今回私が百年会議のために上勝を訪れたことに対する対価は、お金としていただけることになっていた。でも、その翌日に輝実さんたちが町内を案内してくれたことや、杉山さんが徳島市で素敵な人や場所を紹介してくれたことは、すべて贈与の域のことだ。
そのお礼の気持ちもあって、この記事を書いている。どこまでが対価でどこまでが贈与か、は不可分なことも多い。
ここに書いたのは私の考えたことで、誰もが同じようには思わないかもしれない。でも「消費される仕事と、そうでない仕事」を意識することで、消費したりされないですむ働き方を考える一つのきっかけになるかもしれない。
そうであればいいなと思って、輝実さんへの手紙のようなつもりで書きました。
また、機会を見つけて上勝町に遊びに行きたいと思います。
今回は、ありがとうございました。

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